SEOマーケティングの未来を読む~クレアネット通信vol.119
『フランスで成立した「アンチ・Amazon法」の理由』
【1】年度末はなかなかなゆっくりしない日々
人間暇だと余裕ができるのか、だいたいあかんです。暇でもなければ余裕もないんですが、けど忙しい忙しい、言っててもあまりよくない。
忙しいからこそ、時おり遊んだりゆっくりできるのでメリハリがあっていいものだと思うように考えてます。
というわけで、3月は年度末。ゆっくりできてない毎日。ゆっくりできてない毎日。
【2】WEBマーケティング4コマ漫画
■ 第137話
ツイッタースパムの脅威
ツイッタースパムに呉くんも悩まされているようです。不審なアカウントやツイートはクリックしないようにしましょう!
■ 第136話
Webディレクター
謎のタイミングで新人の豪くんが入ってきました。呉くんはこれから豪くんの教育で忙しくなりそうです。
【3】フランスで成立した「アンチ・Amazon法」の理由
通販サイトとして名実ともにナンバーワンといえるAmazon。
「インターネット上の商取引の分野で初めて成功した企業の1つ」であり、運営するアマゾン・ドット・コムの本拠はアメリカ・シアトルにあります。
Amazonは日本と同じくフランスでも業績を伸ばしており、本の売り上げも伸ばしています。フランスでは17%もの人々がオンライン書店から本を買っている状況だそうですから、Amazonからの割合も高いと思われます。
その一方で、Amazonの値引き販売によって書店や再販制が大きな危機に直面しています。フランスでは、Amazonの進出でフランスの書店チェーンで第2の大手だったChapitreが倒産してしまいました。
また、海外事業者であるAmazonと国内業者の、課税をめぐる不公平など、いわゆるAmazon商法について世間の関心も高まっています。
そんな状況の中、フランスで「アンチ・Amazon法」とも呼ばれる法律が可決されました。これはどのような法律で、何を危惧して生まれたものでしょうか。
今回のメルマガではこの法案と、その背景について取り上げてみたいと思います。
書籍の値段価格を保護するフランスの「ラング法」
フランスではもともと「ラング法」という法律で本の値段価格が保護されていました。ラング法とは、簡単に言えば本の定価販売を義務付ける法律です。1981年、当時フランスの文部大臣だったジャック・ラング(Jack Lang)の主導で制定されたもので、彼の名を取りラング法と称されました。
この法により、出版社は本の定価を決め、本の裏表紙には価格が印刷されることになりました。そして大手のチェーン店も個人書店も、本を定価で売ることになりました。
ただし、小売業者は定価の95%から100%の間で販売価格を設定してよいとされています。これは言い換えれば、5%までなら割引が認められているということです。制定された1981年当時は、ラング法は大型書店チェーンから個人書店を守ることを目的としていました。そのためか、今でもフランスでは個人書店が健在で、その後、イタリア・ポルトガル・スペイン・ドイツなどでも法律で本の定価制が取り入れられました。
ラング法の3つの効果
本の定価販売を義務付けるラング法制定の背景には、3 つの意図があったと言われています。
それは「書籍に関する国民の平等」「販売網の維持」「創作と出版の多様性の維持」です。「書籍に関する国民の平等」とは「どんな場所でも本を同じ価格で購入できるようにする」ということです。
「販売網の維持」とは「流通に不便な地域でも本を購入できるようにする」ということです。「創作と出版の多様性の維持」とは「あまり売れない専門書や難解な文芸作品などを扱う作者や出版社が活動を維持できるようにする」ということです。
大型書店チェーンが壊した「書籍の推奨価格制度」とそれが招いた危機
「ラング法」制定以前の1970 年代までのフランスでは「発行者が小売業者に対して推奨価格を提示する」という「書籍の推奨価格制度」をとっていました。
推奨価格とあるように、これは強制ではありませんでした。しかし、ほぼすべての小売業者は推奨価格に従っていました。
つまり「書籍の推奨価格制度」は実質的に「ラング法」と同じ機能をもっていたのです。
この状況を変えてしまったのが、大型書店チェーンです。1974 年、大型書店チェーンは推奨価格から20%引きで販売を開始しました。
これは2つの危険を招きました。
一つ目は、価格競争に耐えられない個人書店が消えてしまい、本を購入できる場所が限定されてしまいました。
二つ目は、ベストセラー本などのような大衆受けする本ばかりを安く売るようになり、需要の少ない専門書などは値段を上げざるを得なくなりました。
「書籍に関する国民の平等」「販売網の維持」「創作と出版の多様性の維持」のすべてを損ねてしまいかねないこのような状況を背景として、ラング法が制定されたのです。
ラング法により、小さな書店も淘汰されることなく、本の小売店数は一定した値を保つことができたそうです。
「オンライン書店」に対抗するAmazonの「5%値下げ」「送料無料」
しかし、このラング法がうまく機能していたのは、すでに昔の話です。
現在、フランスの町の書店は、ネット書店の二大大手AmazonとFnac(フランス固有のオンライン書店でCD・DVDなども扱う巨大ストア)によって脅かされています。
AmazonとFnacは、何をしたのでしょうか。
それは「法律で許されている5%の値下げ」と「送料無料」で町の書店に対抗することでした。
安くて送料無料だけでなく、自宅に本を届けてくれるオンライン書店なら、重い本を持って帰る苦労もありません。小さな町の書店の脅威は「大型書店チェーン」から「オンライン書店」に変わりました。
5%の値引きと送料無料は不当競争だとして、3000店に上る小さな書店から、どうにかしてくれと苦情が寄せられることになりました。
その結果、生まれたのが「アンチ・Amazon法」です。
Amazonと税金
ちなみに、なぜAmazonは送料を無料にできるのでしょうか?「タックスヘイブン」という言葉があります。
これは「租税回避地」という意味で、資源や産業に恵まれない発展途上国が外貨を獲得するために、無税にしたり税金を優遇したりして企業を誘致している国や地域のことを言います。
キュラソー、ケイマン、スイス、パナマ、バハマ、ルクセンブルク、モナコ、バミューダ諸島などです。(ちなみにヘイヴンとは英語で避難所を意味するhavenであり、天国を意味するheavenではありません)
Amazonはタックスヘイブンとして利用するためにルクセンブルグに欧州本社を置いたりしているので、送料無料でも利益が出せるのです。
ちなみにAppleはアイルランドの子会社からオランダ経由で無税地帯のカリブ諸国に収益を移転……というややこしいテクニックを開発することで35%の税率を2%に削減し、Google社はアイルランドに支社を置きバミューダ諸島を通して送金したりしています。
こうした国際的なIT企業の、違法ではないがあからさまに租税回避を狙った手口が批判されています。海外事業者であるAmazonと国内業者の課税をめぐる不公平、と冒頭で言っていたのはこういうことです。
あからさまな方法で税金を収めることを回避し、その浮いた分を使って送料無料などのサービスを行い、シェアを広げる海外の企業のやり方は、国内の企業や書店から見れば不公平だと思うのは当然かもしれません。
「アンチ・Amazon法」の成立で送料無料がなくなることに
今回制定された「アンチ・Amazon法」と呼ばれる法とはどんなものでしょうか。
それは、「オンライン書店は定価の5%引きと送料無料を同時に行うことを禁じる」という内容です。
書店を保護するという名目のためにつくられたラング法のバージョンアップのようなこの法に対し、フランスのフィリペティ文化・通信相は、
「実際にはAmazonという特定企業を対象とする法律ではない」「文化への接点として不可欠な個人書店を守るために必要な法律」「わが国の書籍に対する深い愛着」とコメントしています。
しかし、Amazonなどは送料無料で本を売れなくなってしまうことから、オンライン書店の本の価格は上がることになり、議論を呼びました。
「書店の保護や税金なんかわからない、安ければそれでいい」という人からすれば余計なお世話だったのかもしれませんね。
送料無料ができなくなったAmazonの対抗策は?
Amazonはこの法律にどうやって対処するのでしょうか。気になりますよね。
Amazon側はフランスの議会下院で可決された時から「書籍の価格をつり上げようとするいかなる措置も、フランス国民の消費力を低下させネット通販利用者に対する差別を生み出す結果にしかならない」と猛反発していました。
上院で可決されてしまってから、フランスのAmazonでは「Amazon Prime」というサービスを導入しました。
これは、年間49ユーロ(約6800円)を払えば送料が無料になるというものです。「年会費に送料が含まれているから、違反はしていない」ということでしょう。
書店を愛するフランス
フランスの書店はとても多いそうです。全国に約3500店もあるそうで、これはイギリスの3.5倍。
個人書店も全国に600~800あり、パリを中心におしゃれな書店さんが多くあるそうです。
パリで書店をやると、他の店より安く店舗が借りることができたり、災害や急なトラブルで経営が悪化した場合は申請すれば国が低金利でお金を貸してくれたりと、国から手厚く保護されているそうです。
オンライン書店に苦しめられている本の業界のためにと、2014年には1230万ドルの救済資金まで投じられていたそうです。これだけ書店を大事にするお国柄だからこそ、こういう法案が成立したのかもしれません。
「アンチ・Amazon法」に対するオンライン書店の言い分
オンライン書店側にも言い分はあるようで、「フランスでの売り上げの7割が出版されて1年以上経ったもの」「街の書店は新刊本の販売にばかり力を入れるため、ネット書店に頼ることになる」「足りない部分を補っているだけなので共存していけるはず」という声もあるそうです。
送料や割引率といったお金以外の面でも、店の中をブラブラして色んな本を見ながら手にとってそれから買いたいから書店で、という人もいれば、手軽で早くて見つけやすいからオンラインで、という人もいるので、そういう本に対する価値観による住み分けもされていくのかも、と思います。
まとめ
このフランスで制定された「アンチ・Amazon法」で、オンライン書店に脅かされている個人書店は救われるのか、客は戻ってくるのか、気になるところです。
日本でも同じようなことは起こりうるわけですし、ITビジネスに関わりのあることですから、フランスでこれからどのような変化が起こるのか、日本にはどう影響していくのか、注意深く見ていきたいと思います。
記載:クレアネット谷