SEOマーケティングの未来を読む~クレアネット通信vol.116
『ITを使った徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」とは』
【1】インターン企画のオセロゲームが完成
創作は記憶である、というクロサワ先生が言ったとか読みましたが、このパロディが知っているからこのコピーが出てきます。
創作は記憶ですね、記憶の引き出しの量が違うから出てくるものだらけ。一文字かえるだけでこの変化。日本語は深い。
ちなみに前も紹介した、研修生企画の格言集。
早速意見をいただき、
「ウィリアムウォードのコトバやけど、平凡な教師は言って聞かせる。 よい教師は説明する。優秀な教師はやってみせる。 しかし最高の教師は子どもの心に火をつける。やから、教師を上司に変えてるやん!」
と鋭い指摘を。そうなんです、ビジネスバージョンです、本来やる気や意欲は必ず何かあるんです、そのスイッチを押すことが大事、と常に意識を持つのが大事というもの。そうですね。
研修生企画:クレアネット格言集
【2】WEBマーケティング4コマ漫画
■ 第124話 「伝わる」デザインとは!
■ 第123話 パイレーツアップデート
【3】ITを使った徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」とは
かつて、過疎化と高齢化が進む町がありました。四方を山に囲まれ、面積の約9割は山林で占められ、進学や就職で若者は町を出ていき、2人に1人が65歳以上の高齢者。徳島県の中部に位置する人口約2200人の四国で最も小さな町、上勝町はそんな町でした。
ところが「あるビジネス」により、無気力な老人ばかりだったこの町は生まれ変わります。徳島県1位の高齢化率にもかかわらず、1人当たりの老人医療費は徳島市の中で最も低くなりました。
町営の老人ホームは、定員割れが続き廃止に。過疎化する一方だった町は活気を取り戻し、移住者や若者も増加。全国各地から地方議員などの視察者が殺到し、2006年度には人口の2倍近い3957人が訪れたそうです。
地域活性化をしようにも、もうどうにもできないと匙を投げたくなるような町を救ったその「あるビジネス」とは「葉っぱビジネス」です。高齢者にIT技術を使いこなさせることでビジネスを成功させたという点で、非常に興味ぶかい話です。
今回はこの「葉っぱビジネス」を取り上げてみたいと思います。
「葉っぱビジネス」と「ツマモノ」
「ツマモノ」というものがあります。
日本料理を美しく彩り、引き立てるために添えられた、四季を感じさせる葉っぱや枝花などのことです。「葉っぱビジネス」とは、このツマモモノを栽培・出荷・販売するビジネスのことで、この町ではツマモノを「彩(いろどり)」というブランドで出荷しています。
上勝町のツマモノの全国シェアは8割を占めています。生産者の平均年齢は70歳にもかかわらず、中には年収1000万円を超える者や、その収入で「葉っぱ御殿」と呼ばれる豪邸を建てた者も。上勝町は、葉っぱを売ることで、町の約9割を占める山林を宝の山としたわけです。
上勝町を救うために立ち上がった横石知二氏
どのようにして、上勝町が葉っぱビジネスをするに至ったのでしょうか。
1946年、異常気象による未曾有の大寒波により、上勝町内のほとんどのみかんが枯死するという壊滅的な被害を受けました。オレンジの輸入自由化も追い打ちをかけ、売上は約半分に。
当時、営農指導員として上勝町農業共同組合に来ていた横石知二さん(現・株式会社いろどり代表取締役社長)は、「経済的にも精神的にもショックを受ける農家を何とかしなければ」「お年寄りが活躍できるビジネスはないか」と模索した結果、1987年から、高齢者でも取り組める仕事として「山で採取した葉っぱや花の出荷」を始めました。
葉っぱビジネスのアイディアを掴んだきっかけ
寒波から5年後、立ち寄ったすし屋で、横石知二氏はこんな光景を目にしました。
ある女性客がツマモノとして添えられた赤いもみじの葉っぱを綺麗だと言い、ハンカチに包んで持ち帰ったのです。
この瞬間「葉っぱをツマモノとして売ればビジネスになる」と閃いたそうです。当時、ツマモノは市場に流通しておらず、料理人自ら収穫していたそうです。
上勝町で農家を説得に回りましたが、「落ちているゴミを売るなんて貧乏人のすることだ」「タヌキじゃあるまいし、葉っぱがおカネに化けるわけがない」と中々うまく行かず、協力してくれたのは主婦4人だけ。
それだけで何とか「彩(いろどり)」というブランドで葉っぱの販売にこぎ着けました。
「葉っぱとツマモノは同義ではない」
商品開発と生産体制で売上UP
しかし現実は厳しいものでした。上勝町の葉っぱはほとんど売れず、初年度の売り上げはわずかに116万8930円だったそうです。
横石知二氏は原因を突き止めるため、どのような料理にどのような葉っぱがツマモノとして使われているのか、自腹で全国の料亭を回って研究したそうです。
その結果、ツマモノが事業として成り立つには、2つのポイントがあると気づいたそうです。それは「商品開発」と「生産体制」です。
まず1つめの「商品開発」。
料理に添えて季節感を演出するツマモノには、当然、洗練された美しさが求められます。ですから、ツマモノとする葉っぱには、整った形や、美しく情緒のある色彩が重要です。
上勝町の生産者たちは、色や形も揃えず、虫食いやしみがあるものも取り除かず、山で収穫した葉っぱをそのまま出荷していたのです。
そこで横石知二氏は、色、形、大きさなどの重要なポイントをまとめた手書きのイラストを作成し、出荷する葉っぱの均質化を図りました。
そして2つ目は「生産体制」。
料理に季節感を出すには、やや季節を先取りする必要があります。たとえば、料亭では桜が咲き始める1カ月半ほど前から桜をツマモノにするので、自然にまかせて山に咲き始めた桜を出荷していたら、顧客が欲しがっているタイミングより出荷が遅くなってしまうのです。
つまり、葉っぱをツマモノとして売り出し、ビジネスにするためには、「顧客が求めるものを、顧客が求める時期に、顧客が求める分だけ出荷しなければならない」ということです。これを横石知二氏と上勝町は、パソコンとITによって可能にしました。
コンビニのPOSシステムにヒントを得た
「彩ネットワークシステム」
「必要な人に、必要な情報を届ける」というコンビニエンスストアのPOSシステム(販売時点情報管理)を参考にして、1998年、横石知二氏は上勝町の生産者宅にパソコンを導入し、POSシステムを使い、「彩ネットワークシステム」を構築しました。
馴染みのない高齢者に、パソコンと彩ネットワークシステムを使ってもらえるように、入力デバイスとインターフェースをシンプルで分かりやすくし、使い方やデータの見方などを理解してもらえるよう講習会を頻繁に開催したそうです。
また、激励メッセージやニュース、情報を毎日更新することで、ネットワークシステムへの頻繁なログインへの動機付けを行っているそうです。これらは2つの良い結果に繋がりました。
1つ目は、生産者が自ら計画を立てるようになったこと。
それまでファックスで流されていた、どの商品がいくらで取引されたのかという市況がリアルタイムで把握できるようになり「もみじは供給過多で単価が落ちているから、南天に専念しよう」と生産者自ら計画を立てられるようになり、各生産者が自発的に生産量を調整することで特定の商品に出荷が集中して価格下落を招くこともなくなりました。
2つ目は、生産者のやる気を引き出せるようになったこと。
パソコンとPOSシステムで、上勝町の生産者の売り上げ順位をわかるようにしたのです。これが生産者の競争心に火をつけ、皆がお互いにライバル意識を持ち、自分の順位を上げようとするようになりました。
このため程よい活気や緊張感が生産者の間で生まれ、品質も維持されるようになったそうです。
こうして、最初はパソコンに触ろうともしなかった田舎の高齢者が、楽々と操作できるようになり、一日に何度もパソコンを覗くようになり、社会全体の流れにも敏感になっていったそうです。
タブレットも活用する高齢者
市場から上勝町のJAに入った注文は、彩ネットワークシステムによって全生産農家に一斉に送信され、先着順で注文を取り付けます。
しかし、PCやFAXでは、外にいるときは受注できません。そこでAndroidタブレットを導入し、NTTドコモが、ボタンを大きくし、注文が入ると画面全体が赤い表示に変わるといった、シンプルで分かりやすいアプリを開発したそうです。
Androidタブレットとアプリのお陰で、生産者の受注機会の損失も減って売上アップするだけでなく、リアルタイムで需要の高い葉っぱや枚数を確認できるようになり、生産性も向上したそうです。NTTドコモ 法人事業部の山田広之氏は、「高齢者の方がここまで使いこなせるとは思わなかった」「スマートデバイスが新たな活用シーンを創出する一例だ」と述べたそうです。
女性も高齢者も活躍できるビジネス
葉っぱビジネスが軌道に乗り、上勝町は活気を取り戻すことができました。
現在、葉っぱビジネスの生産者194人のうち、5割が60歳以上で、その大半は女性。葉っぱは一枚が軽く、簡単に運べてしまうため、高齢者の女性でも十分活躍できるそうです。
重労働なうえに利幅も薄かったみかん栽培に従事していた頃と違って、今ではかなりの収入を得ることもでき、年収1千万円稼いだりするおばあちゃんや、通称「葉っぱ御殿」と呼ばれる豪邸を建てる人までいるそうです。
頭と情報を駆使してお金を稼ぎ、社会の役に立てる喜びを取り戻したことで、高齢者はみんな元気で若々しく、楽しそうに仕事をするようになりました。その結果、以前あった老人ホームもなくなってしまったそうです。
この高齢者の姿が全国に発信されたことで、「彩事業」だけでなく上勝町もブランド化し、視察希望者が殺到するようになり、仕事のために都会に出て行った息子がUターンしておばあちゃんのツマモノの仕事を継いだり、都会出身の若者がIターンしたりすることも増え、そのための町営住宅も完備されるようになったそうです。
地域活性化への貢献し、地域に愛された横石知二氏
1996年、横石知二氏が農協を辞めて上勝町を去ろうとしたとき、当時の葉っぱビジネスの生産者177人が「辞めないでほしい」と、一晩で手書きの署名と捺印を集め、嘆願書まで出したそうです。
また、徳島県の地域活性化に貢献したとして、横石知二氏は、32ヵ国で開催されている国際的な起業家表彰制度「Entrepreneur of the Year」の2002年の日本大会において特別賞(ソーシャル・アントレプレナー賞)を受賞しました。
横石知二氏が地域に貢献し、愛されているという何よりの証拠ではないでしょうか。
まとめ
使いやすいアプリを開発し、パソコンやタブレットを使いたくなる環境さえあれば、それらに縁の無い高齢者にも使ってもらえるという点に、IT事業者として興味を持ちました。
そして、人を雇用する社長としての立場から興味をもったのが、横石知二氏さんのあげたビジネスに成功に必要な3つのポイントです。
「人それぞれに居場所と出番をつくること」「頑張ったことを評価してあげること」「からぶりをさせずに自信をつけさせてあげること」
上勝町の葉っぱビジネスの成功に導いた要因は、料亭のツマモノから山の葉っぱを売ることを思いついたアイディアだけでなく、ITを上手く使うことで、高齢者に居場所や活躍の場を作り、まだ社会の役に建てるという自身を取り戻させることができたからではないでしょうか。
いつか、ITを使って、こんな日本が直面している高齢化問題を解決する一助になるようなビジネスを手がけたいと思いました。
記載:クレアネット谷