「僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
常に父の気魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため」
高村光太郎の道程です、熱い気魄が伝わってきます、最後2回繰り返すのも力強い決意の表れです。高村光太郎は高校国語の教科書にありましたが、この道程を覚えておらず智恵子抄の高村光太郎とは知りませんでした、お恥ずかしながら今まで。そういう文化の素養は時々すこんと抜け落ちているので日々少しずつ埋めようとしているのですが、智恵子抄は懐かしく少し読んでいるとおすすめ本を発見しました。
文章を味わうもよし、このような漫画で理解するもよし、なのですがレビュー評判もいいのでキンドルで購入。
高校の国語教科書にレモン哀歌の部分はあったのか記憶はありません、確か「いやなんですあなたの往つてしまふのが」のN女史あたりがあったような。直球ストレートな感情が感情はっきりしてて、思春期特有の面倒な奴を高校時代などは経験中だったので何かこの表現は覚えています。
画像の引用はレモン哀歌の場面、
「そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ」
智恵子抄の中でも最も悲しい、智恵子の死の瞬間を描いた情景で、レモンをがりりと噛んだ智恵子がふっと意識を正常にした場面です。
記憶にあるのは智恵子さんが亡くなってしまう、その想いをまとめた作品くらいしか覚えていないのと、しかし、今読むと涙なしでは読めません。
光太郎の智恵子への愛情や全てがあるがままに表現している内容で、純粋な愛であって尊さが表現されています。
智恵子さんは早くに亡くなりますが、智恵子抄を読んでここまでに光太郎に愛された智恵子さんは幸せだったのだろうと感じます、物語の終盤、智恵子を失った光太郎が自分の身や生きる理由は智恵子を残すためにあってそのために肉や魚、バターを食す権利が与えられるのだ、との表現がありますが、これは自分の価値を見出した瞬間です。
自分は何のために生きるのか。
純愛に生きたからこそ智恵子を世に残そうとする光太郎。晩年戦争賛美の表現などを後悔したそうですが、8月15日それも相俟って改めて今日「智恵子抄」を読んでよかったなと。半世紀、1世紀経とうがこの純粋な想いはまんがを通じてでも伝わりますし、漫画のタッチも秀逸です。こういった少し古いけど有名な作品を読みきれていないのでもう少し読書の幅を広げたいないとあかんなと。